私が大聖女ですが、本当に追い出しても後悔しませんか? 姉に全てを奪われたので第二の人生は隣国の王子と幸せになります
40 許さない
直後、飛び出して森へ行こうとするリアを、フランツとコリアンヌが必死で止めた。最後にコリアンヌが泣くのを見て、リアは出立を思いとどまった。
すぐにアルマータ夫妻にこのことを知らせに使いがおくられた。この事態は国王に知らせなければならない。国の第二王子が攫われたのだ。
みな兵の準備が整うまで待てと言う。交渉材料の為に連れて行ったのだから、一国の王子をあっさりと殺したりはしない。
リアもそう言われていったん引き下がった。
しかし、頭ではわかっても心は納得しない。ルードヴィヒは普通の体ではないのだ。彼は呪われている。今日の午後、あまり調子がよさそうではなかった。回復薬が必要なはずだ。
リアはずた袋にルードヴィヒのための回復薬をつめると、明け方黙って屋敷を抜け出した。
世話になった皆に短い置手紙を残して。
「ごめんなさい。フランツ、コリアンヌ。レオンのことよろしくお願いします。ルードヴィヒ様は私の命に代えてもお守りします」
森の入口で小さくつぶやくと、夜明け前のポツリポツリと窓に明かりともる屋敷に向って一礼する。
リアはアリエデを目指して、闇に包まれた森をひた走った。
(ニコライ、あなたをぜったいに許さない)
♢
リアは精霊に祈りを捧げ、力をかりた。暗闇に閉ざされた森を猛スピードで駆け抜ける。時に行きあった魔物をメイスで殴り倒しながら突き進む。
治癒能力は下がっているのに、不思議と精霊の力を借りることは出来る。きっと強力な効き目の治癒魔法はアリエデの聖女特有のものなのだろう。追放されたリアから、失われつつある能力だ。
もうすぐアリエデというところにきて、ズンと体に重みを感じリアの足が鈍った。瘴気が濃くなり、体に強いプレッシャーがかかる。もうすぐ、森の出口だ。いつの間にか日も高くまで上っている。どれほど走り続けただろう。リアは一睡もしていない。
アリエデが近づくにつれて魔物も多く出没し始めた。
ふいにリアのまとっていた精霊の加護が掻き消えた。こんなことは初めてだ。こんもりと生い茂る木々の先は開けていて、田舎道が見え、そのさきに田園風景が広がっている。
アリエデについたのだ。もう二度と踏むこともないと思っていた故郷。懐かしさなど微塵も感じない。ただただルードヴィヒの無事を祈る。
リアはもう一度風の精霊に祈りを捧げた。しかし、うんともすんとも言わず、何の手ごたえもない。
とうとう精霊に見放されてしまった。ショックのあまり崩れ落ちそうになる。
しかし、絶望している暇はない。リアは腕に覚えがあり、加護がなくても戦える。ルードヴィヒを救い出さなければならない。彼の命が惜しくば、ニコライはアリエデに戻れとリアに要求してきた。黒の森の結界を張り直し国の為につくすならば、ルードヴィヒを返そうと言っている。
きっとルードヴィヒは王宮に連れて行かれたのだろう。彼は地下牢に繋がれてしまうかも知れない。そう思うと気が気ではない。何といっても彼は普通の体ではないのだ。あのような劣悪な場所にいれられたら体に障る。
リアは焦る気持ちにせかされるように森の出口目指して走った。あと一歩で森の外というところで、体に強い衝撃を感じ、たたらを踏んだ。危うく地面にたたきつけられる所だった。
見るとアリエデの兵士たちが、森の入り口に潜みリアを待ち構えていた。相変わらずこの国のやることは卑怯だ。不意をつかれたリアは慌てて態勢を立て直しメイスを構える。
「ルードヴィヒ様をどこへ連れて行ったのです!」
リアは一歩も引かず問い質す。兵士数人ならば、精霊の力を借りられない今でも、どうにかなりそうだ。
「リア殿、久しぶりだな。これから我々と一緒に来てもらおう」
聞き覚えのある不快な声音に振り向くと聖騎士ジュスタンが立っていた。聖騎士の強さは兵士の比ではない。待ち伏せされていたのだ。すっかり囲まれリアは己の分の悪さを悟ったが、恐怖よりも怒りが勝る。
ルードヴィヒを取り戻すまで、彼らにみすみす捕まるわけにはいかない。アリエデの人間は隙あらば、人を裏切る。保身の為に平気でうそを吐く。彼らの言うことを全く信用していなかった。大人しく従ったからと言ってルードヴィヒを返してくれるとは限らない。もとより彼らの言いなりになるつもりもなかった。
「ルードヴィヒ様はどこです!」
リアがジュスタンにひたりと目を据える。
「ああ、あの男か。随分と弱っているようだったな。高い熱をだしていた」
ジュスタンが満足げに目を細めて微笑む。まるで捕らえた獲物を自慢する猛獣のようだ。
「なんてこと……」
呪いの発作だ。すぐに回復薬を飲ませなくては。彼はいまごろ全身をむしばむ痛みに苦しんでいる。
「あの死にぞこないならば、とっくに荷馬車に積んで王都に送ったよ。貴殿が着くまで、生きていればいいがな」
絶望から、一気に怒りが沸点まで達した。
「許さない。ルードヴィヒ様をかえせ――!」
リアは叫び、メイスを振り上げ、聖騎士につっこんでいった。
すぐにアルマータ夫妻にこのことを知らせに使いがおくられた。この事態は国王に知らせなければならない。国の第二王子が攫われたのだ。
みな兵の準備が整うまで待てと言う。交渉材料の為に連れて行ったのだから、一国の王子をあっさりと殺したりはしない。
リアもそう言われていったん引き下がった。
しかし、頭ではわかっても心は納得しない。ルードヴィヒは普通の体ではないのだ。彼は呪われている。今日の午後、あまり調子がよさそうではなかった。回復薬が必要なはずだ。
リアはずた袋にルードヴィヒのための回復薬をつめると、明け方黙って屋敷を抜け出した。
世話になった皆に短い置手紙を残して。
「ごめんなさい。フランツ、コリアンヌ。レオンのことよろしくお願いします。ルードヴィヒ様は私の命に代えてもお守りします」
森の入口で小さくつぶやくと、夜明け前のポツリポツリと窓に明かりともる屋敷に向って一礼する。
リアはアリエデを目指して、闇に包まれた森をひた走った。
(ニコライ、あなたをぜったいに許さない)
♢
リアは精霊に祈りを捧げ、力をかりた。暗闇に閉ざされた森を猛スピードで駆け抜ける。時に行きあった魔物をメイスで殴り倒しながら突き進む。
治癒能力は下がっているのに、不思議と精霊の力を借りることは出来る。きっと強力な効き目の治癒魔法はアリエデの聖女特有のものなのだろう。追放されたリアから、失われつつある能力だ。
もうすぐアリエデというところにきて、ズンと体に重みを感じリアの足が鈍った。瘴気が濃くなり、体に強いプレッシャーがかかる。もうすぐ、森の出口だ。いつの間にか日も高くまで上っている。どれほど走り続けただろう。リアは一睡もしていない。
アリエデが近づくにつれて魔物も多く出没し始めた。
ふいにリアのまとっていた精霊の加護が掻き消えた。こんなことは初めてだ。こんもりと生い茂る木々の先は開けていて、田舎道が見え、そのさきに田園風景が広がっている。
アリエデについたのだ。もう二度と踏むこともないと思っていた故郷。懐かしさなど微塵も感じない。ただただルードヴィヒの無事を祈る。
リアはもう一度風の精霊に祈りを捧げた。しかし、うんともすんとも言わず、何の手ごたえもない。
とうとう精霊に見放されてしまった。ショックのあまり崩れ落ちそうになる。
しかし、絶望している暇はない。リアは腕に覚えがあり、加護がなくても戦える。ルードヴィヒを救い出さなければならない。彼の命が惜しくば、ニコライはアリエデに戻れとリアに要求してきた。黒の森の結界を張り直し国の為につくすならば、ルードヴィヒを返そうと言っている。
きっとルードヴィヒは王宮に連れて行かれたのだろう。彼は地下牢に繋がれてしまうかも知れない。そう思うと気が気ではない。何といっても彼は普通の体ではないのだ。あのような劣悪な場所にいれられたら体に障る。
リアは焦る気持ちにせかされるように森の出口目指して走った。あと一歩で森の外というところで、体に強い衝撃を感じ、たたらを踏んだ。危うく地面にたたきつけられる所だった。
見るとアリエデの兵士たちが、森の入り口に潜みリアを待ち構えていた。相変わらずこの国のやることは卑怯だ。不意をつかれたリアは慌てて態勢を立て直しメイスを構える。
「ルードヴィヒ様をどこへ連れて行ったのです!」
リアは一歩も引かず問い質す。兵士数人ならば、精霊の力を借りられない今でも、どうにかなりそうだ。
「リア殿、久しぶりだな。これから我々と一緒に来てもらおう」
聞き覚えのある不快な声音に振り向くと聖騎士ジュスタンが立っていた。聖騎士の強さは兵士の比ではない。待ち伏せされていたのだ。すっかり囲まれリアは己の分の悪さを悟ったが、恐怖よりも怒りが勝る。
ルードヴィヒを取り戻すまで、彼らにみすみす捕まるわけにはいかない。アリエデの人間は隙あらば、人を裏切る。保身の為に平気でうそを吐く。彼らの言うことを全く信用していなかった。大人しく従ったからと言ってルードヴィヒを返してくれるとは限らない。もとより彼らの言いなりになるつもりもなかった。
「ルードヴィヒ様はどこです!」
リアがジュスタンにひたりと目を据える。
「ああ、あの男か。随分と弱っているようだったな。高い熱をだしていた」
ジュスタンが満足げに目を細めて微笑む。まるで捕らえた獲物を自慢する猛獣のようだ。
「なんてこと……」
呪いの発作だ。すぐに回復薬を飲ませなくては。彼はいまごろ全身をむしばむ痛みに苦しんでいる。
「あの死にぞこないならば、とっくに荷馬車に積んで王都に送ったよ。貴殿が着くまで、生きていればいいがな」
絶望から、一気に怒りが沸点まで達した。
「許さない。ルードヴィヒ様をかえせ――!」
リアは叫び、メイスを振り上げ、聖騎士につっこんでいった。