その溺愛は後出し不可です!!
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初めての出逢いは十年前のこと。
「A定食ひとつ」
「A定食ひとつ」
異口同音に発せられた単語にギョッとし隣を見上げれば、そこには誰もの目を引く美しい男性が立っていた。
男性に美しいという言葉を使うのはおかしいことかもしれない。
しかし、果歩の語彙力では咄嗟に他の言葉が思い浮かばなかった。
日本人離れしたスタイル。すらりと伸びた長い手足。
アーモンド形の涼しげな目元。薄い唇。
陶器のように滑らかな白い肌。
古びた学食に似つかわしくない整った風貌に果歩はしばし呼吸を忘れ見入った。
「ジャンケンでいいか?」
こちらを向いた拍子にセンター分けの前髪がサラリと揺れた。
どことなく色気を感じる流し目と甘く痺れるような低めのバリトンに、果歩の身体は芯から震えた。
ドクンドクンと早鐘を打つ心臓を落ち着けるのに必死で、言われるがままにコクコクと頷いた。
配膳台に残されたA定食はひとつきり。勝った方が自ずと食事にありつける。
「はい、せーの」
この後、幾度と繰り返される運任せの勝負の最初の一幕。
掛け声からワンテンポ遅れた果歩はあっさりと負けてしまい露骨にガッカリした。
「何で後出しで負けるんだよ」
落胆する様子がツボに入ったのか、昴は口元を手で押さえ湧き上がる笑いをこらえていた。
そして、ひとしきり笑い終わると折角勝ち取ったA定食のトレイを快く譲ってくれた。
「あ、ありがとうございます……」
「どういたしまして」
意外といい人?
友人と談笑しながら立ち去っていく後ろ姿を黙って見送る。
ジャンケンには負けてしまったが、果歩にとってこの出逢いは僥倖以外の何物でもなかった。
意見が割れたら四の五の言わずジャンケンで決める。
あの日から十年経った今でも、二人の大事なルールになっている。
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