その溺愛は後出し不可です!!
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昴の部屋は会社のある複合ビルの真上にある。便利だからと六年前に本社移転と共に引越して以来、ずっと同じ場所に住んでいた。
一旦オフィスフロアのエントランスを出て居住者専用のエレベーターに乗って二十五階へ。ホテルロビーのようなエレベーターホールを抜けるとシックな黒い扉が現れた。
ここが昴くんの部屋か……。
重厚な扉を開けるとそこは別世界のようだった。
初めて訪れる昴の部屋はメゾネットになっており、一階部分は大きな窓のあるリビングと寝室。二階は書斎と使い分けているようだった。
ウォールナット調で纏められた空間はどこか落ち着きを感じさせる。
果歩は初めて訪れる昴の部屋を物珍しげにあちこち視線を彷徨わせるばかりだった。
「俺ので良ければ着替えも貸すけど?」
昴はクローゼットから部屋着と思しき洗い立てのTシャツと半ズボンを持ってきた。
「ありがとう……ございます」
着心地を確かめてみたいという誘惑に抗えず、お言葉に甘えて部屋着を借りる。
早速洗面所で着替えて、クルリと鏡の前で一回転してみた。
これが噂の彼シャツというやつなのか。
着丈の合っていないダボダボの部屋着を着ていると、悪いことはしていないはずなのにどことなく後ろめたい気分になってくる。
部屋着から香る柔軟剤の匂いは昴の香りにも似ていて眩暈がしそう。
まるで、恋人の家に泊まりにきて浮かれているみたいだ。
仮眠するだけだと果歩は自分に言い聞かせると、気合を入れ直すために両頬をパチンと叩いた。
「シャワーは起きてからにするか。もう眠いだろ?」
ようやく洗面所から出てきた果歩に、同じく着替えを終えた昴があくびを噛み殺しながら尋ねる。
見たところ寝室は一つしかない。
自分が寝るのはソファだろうと見当をつけ、先んじて寝転がる果歩に昴は苦笑いした。