その溺愛は後出し不可です!!
「折角来たんだし、少し見てみるか?」
昴はそう言うとデスクの脇に置かれたA3サイズのボードをウキウキしながら取り出した。
「こっちはより高度な分析ができる改良型。こっちは逆に単一機能に絞った簡易型。そろそろ開発に着手しようと思ってるんだ」
ボードには設計の骨子と、詳細なフロー図が描かれていた。誰かに話したくてたまらなかったのだろう。
果歩の肩を抱き未来を語る昴の頬は上気し、瞳はキラキラと輝いていた。創造力はまだまだ尽きそうにない。
「一緒に頑張りましょうね」
大事な物を見せてもらった嬉しさと子供のように無邪気な昴の様子につい笑みが溢れる。
風間さんはなんて言うだろうか。
ジローさんは嬉々として面白がりそうだ。
慌てふためきながらも、楽しそうに今後の計画を練る様子が目に浮かぶ。
新製品を開発するなら資金調達と人員調達も欠かせない。
発起人たる昴も開発に混ざるだろうし、開発工程をベースにもう一度スケジュールを組み直していかなければならないだろう。
昴はボードを元の位置に戻すと、忙しなく頭を働かせている果歩の手を握った。
「なあ、ジャンケンしよう」
「今ですか?」
昴のお願いに果歩は不満げに首を傾げた。
今は半年先の予定を組み直すので頭が一杯だから、出来れば後にして欲しいとすら思う。
そんな心中を知ってか知らずか、昴は果歩の左手を持ち上げ薬指にキスを贈る。
「もし俺が勝ったら……結婚してくれ」
「……へ!?」
今なんて?と聞き返す間も与えられなかった。
「はい、せーの」
「え、あ、はい!?」
突然始まった勝負の行方は、昴の勝利で幕を閉じた。
「俺の勝ちだな」
「どういう……」
どういうつもりか聞き返そうとした時、昴のスマホから出社時間が迫っていることを知らせるアラームが鳴る。
「残念。この話は後でな」
昴はそう言うと果歩の頭にポンと手を乗せ、階段を軽快に降りていった。
書斎に一人取り残された果歩は放心していた。
もしかして今プロポーズ……された?