その溺愛は後出し不可です!!
「お、昴にウメキチじゃん」
エレベーターが一階に到着し、扉が開いたかと思えば聞き慣れた声が聞こえてきて戦慄する。果歩は我に帰ると大慌てで昴を押し返した。
「お、おおお、おはようございます!!ジローさん!!」
平静を装おうにも時既に遅し。エレベーターに乗っていたとは思えないほど果歩の呼吸は不自然に乱れているし、声は上擦っている。
昴と同様、会社の真上に住んでいる篝が引き継ぎを終え帰宅するのは当然だし、なんなら居住区用のエレベーターで鉢合わせすることも事前に予想できた。
なんの対策もせずにいたのは迂闊としか言いようがない。
「あれ?ウメキチ、昴の部屋に泊まったのか」
篝は昨日と同じセットアップを着ている果歩を見て、ニマーっと八重歯を見せ意地悪い笑みを浮かべた。
「いや〜とうとうこの日がきたか。お前らとうとうやっちまったのか?」
「別に何をしようと構わないだろう。俺達結婚するんだし」
昴は果歩を引き寄せ、篝に見せつけるように肩を抱いた。
その時の果歩の驚きようは声にならなかった。
人を揶揄うのが生きがいの篝でさえ突然の結婚宣言に度肝を抜かれ口をポカンと開けていた。
果歩は思わず昴の腕を振り払った。
「わ、私!!先に会社に行ってます!!」
果歩は居た堪れなくなり、その場から脱兎の如く逃げ出した。