その溺愛は後出し不可です!!
完全に失敗した。
果歩は魂が抜けた状態でノートパソコンに向かって突っ伏していた。
あれほど露骨に狼狽していたら昨夜は何かありましたと言っているようなものだ。
やましいことはひとつもなかったのだから、堂々と否定すれば事は済むはずだった。
まさか、昴が篝にまで結婚の話をするなんて。
果歩は思わず頭を抱えた。
結婚を申し込まれた上に、エレベーターでキスまで!!
果歩の頭はこれ以上ないほど混乱していた。
どうしよう。昴くんの中では私達結婚することになってる?
果歩から遅れること十分。
昴は出社するとデスクで沈んでいる果歩の頭を静かに撫でた。
まだ顔は上げられそうにない。今、昴の顔を見たら多分まともじゃいられない。
「ジローにはちゃんと説明しといた」
「すみません。逃げ出して……」
果歩はデスクに顔を伏せたままの状態で謝った。もはや何を謝ったらいいのかわからなかった。
「今日の夜、空いているか?」
「空いてますけど……」
恐る恐る答えると、昴は果歩のデスクに平たい何かを置いた。
「これ、俺の部屋のカードキー。使い方は今朝も見たよな?仕事が終わったら部屋で待っててくれ。じゃあ、出掛けてくる」
昴が出ていくと果歩は即座に顔を上げ、カードキーを手に取った。
「……なんで?」
ひとり社長室に残された果歩はカードキーを渡された意味が分からず完全に持て余した。