その溺愛は後出し不可です!!
「何してんの?」
「ひゃっ……!!」
仕事を終え帰宅した昴は真後ろから果歩を見下ろした。
「お、おかえりなさい……」
「掃除した?なんか部屋が綺麗になってるけど」
「待ってる間暇だったので……」
「ああ、そうだよな。この部屋、果歩の気をひくような物は何もないもんな」
昴はネクタイを外し、クシャリと髪を掻き上げた。社長としての武装をひとつまたひとつと解いていく姿にうっとりする。
「まあ、これから徐々に持ち込めばいいだろ。小説でもマンガでも。確か推理小説が好きなんだっけ?」
昴の言う通り果歩は学生の頃から海外の推理小説ばかりを好んで読んでいた。
一度だけ昴にオススメの小説を貸したことがあったが、まさかまだ覚えていたなんてと、感動している場合ではない。
すっかり出端を挫かれてしまったが、言うべきことは言わなければならない。
「今朝のあれは一体、どういうつもりですか?」
「ははっ。もしかして照れてる?」
昴は嬉しそうに笑い、逞しい腕の中に果歩を閉じ込めた。
「俺達結婚するんだぞ。キスぐらいで照れるなんてその先はどうする気だ?」
「まさか……結婚は本気なの!?」
「当たり前だろう?」
昴はそう言うと果歩の頬に軽くキスをして、仔犬が戯れるように首筋に顔を埋めていく。
肝心な話が全く噛み合わず果歩は困り果ててしまった。
後には引けなくなっている感じがそこはかとなく怖い。