その溺愛は後出し不可です!!
なにこれ。私、死ぬの?
近々死ぬ運命にあるとすれば、昴に買ってもらったこの指輪はさしずめ三途の川を渡る際に船頭に渡す駄賃代わりといったところか。
とんでもなく厄介な代物を果歩に与えた張本人は涼しい顔で窓の外を眺めている。
街灯とテールランプに照らされたオレンジ色の横顔を見て、果歩は次第に心を静かに落ち着かせていった。
まだ会社が今ほど大きくなかった頃、賃貸アパートのベランダでよく二人でコーヒーを飲んでいた。
きまって徹夜明け、朝焼けを見ながら昴の入れてくれた熱々のコーヒーを啜る。
果歩はコーヒーに夢中なふりをして、昴の横顔をいつも盗み見ていた。
この穏やかな時間がずっと続けばいいのに。
無邪気に抱いた思いは会社の規模が大きくなるにつれて薄れていった。
社長と秘書という肩書きで立ち回ることが増え、昴くんと呼ぶこともいつしかやめてしまった。
しかし、今。心の奥底にしまっていた思いが徐々に蘇ろうとしている。
なんの奇跡かはわからないが、昴は果歩と結婚したいらしい。
このまま流されてしまえば、想いは成就するのだろうか。
何年経っても進歩がないな……。
左手の薬指の冷たい感触に慣れない果歩は、何度もその存在を確かめるように指で撫でさすったのだった。