その溺愛は後出し不可です!!
タクシーは果歩の住むアパートの前で静かに止まった。
「あ、あの今日はありがとうございました……。それではまた明日……」
「果歩」
昴は扉を開け降りようとする果歩の腕を引きタクシーの中に引き留めた。
「俺、まだ朝飯作ってもらってないけど?」
心のどこかで帰るなと言われることを期待していた果歩は拍子抜けした。
昴の言い分は尤もだった。
果歩が朝食を作るという体で泊まったはずなのに今朝は結局時間がなくなってしまい、二人とも朝食を抜いて急いで出社してしまった。
「いつにする?」
「あ、え!?」
「平日より休みの方がいいよな?今週の土日は暇か?」
「……あ、うん。大丈夫」
「じゃあ決まりだな。泊まりの準備もしてこいよ」
そう言い残しタクシーが家の前から走り去っていく。
昴のペースに乗せられ婚約指輪まで買ってもらい、休日の約束まで取り付けられる。……しかも泊まりだ。
隣で寝るだけで済んだ前回とは違う。
泊まりだと言質をとった上で、一晩共に過ごすことが何を意味するか。分からないほど果歩も子供ではない。
私はどうしたいんだろう。
昴と結婚したいのかしたくないのか。果歩にはもう分からなくなってきている。