その溺愛は後出し不可です!!

 果歩が自分の気持ちを自覚したのは、昴と知り合って一年ほど経った頃のことだ。
 それまで恋人がいなかった昴に彼女ができた。
 ミスコンに出場するほど綺麗な人で、平凡を絵に描いたような果歩とは雲泥の差だった。
 構内を並んで歩く二人を見て胸がズキリと痛み、昴への恋心に初めて気がつく。
 結局二人は上手くいかなくてすぐに別れてしまったけれど、この出来事は果歩にある種の知見を与えた。
 仕事仲間なら一生付き合っていけるけれど、恋人になったらいつか別れの日がやって来る。
 このまま流されるように昴に抱かれ、結婚してしまっていいのだろうか。
 ずっと昴が好きだった。
 優しく触れる手も。柔らかい声も。未来を見据える瞳も。全てたまらなく好きだ。
 彼に愛されたいと望む一方で、先に進むことに尻込みしてしまう。
 プロポーズやキスはしてくれても、昴はまだ一度たりとも果歩を好きだとは言っていない。
 ジャンケンをきっかけに唐突に始まった関係だから、唐突に終わってしまうのではないか。
 果歩は昴に飽きられ捨てられてしまうことを何よりも恐れていた。

「果歩っ!!」
 
 シャワーを浴びていた昴はキッチンに駆け込むと、果歩を力強く抱きしめた。
 ただならぬ様子に果歩は首を傾げた。

「昴くん?どうしたの?」
「リビングにいないから帰ったのかと思って……」
 
 冷蔵庫がリビングからやや奥まった所にあるせいであらぬ誤解を招いたらしい。

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