その溺愛は後出し不可です!!
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プロポーズを断り昴の部屋から逃げ出してから、早くも一週間が過ぎた。
同じ職場で働く上司と部下という関係がこれほど辛いと思ったことはない。
普段は温厚な社長と実直な秘書の間に流れる唯ならぬ気配を、社員の誰しもが察していた。
触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものだ。社長である昴に面と向かって何があったのかと尋ねられる者はいない。
ところが、この会社には神をも恐れない男が一人だけ存在した。
「あれ?何で指輪してねーの?昴にもらったんじゃねーのか?」
篝は果歩の左手の薬指を見ると不思議そうに首を傾げた。
三時のおやつ代わりにシリアルバーを齧る篝を果歩は昴不在の社長室に無理やり押し込んだ。
「その話はやめてください……。結婚はお断りしたんです……」
「なんで?」
「なんでって……」
改めて理由を尋ねられて言葉に詰まる。
逃げ出してなお果歩は昴を見ただけで、好きという気持ちが胸いっぱいに溢れ出してくる。
果歩を惑わすあの唇で、指で。もう一度優しく触れてもらえたらと、願ったのは一度や二度のことではない。
昴の傍にいると怖くなる。
自分ばかりが昴を好きで、無尽蔵に求めてしまう。
その想いが更に果歩を苦しめる。
もうどうしたらいいのか果歩自身も分かっていない。