その溺愛は後出し不可です!!
九時ごろ戻るから待っていて欲しいという言葉通り、果歩は会社で仕事をしながら昴を待っていた。
申し出を断られなかったことに正直ホッとした。この一週間、果歩はチクチクと物言いたげな突き刺すような視線を常に肌で感じていた。
嫌われたのかもしれないと考えると涙が出そうだった。
結婚さえしなければ仕事仲間でいられるという認識は大間違いだった。
結婚は気紛れだと思い込み、昴をひどく傷つけた。
謝りたい。顔を合わせて話がしたい。
考え込むたびに一分、また一分と時間が過ぎていく。
九時頃帰ると言っていたが時刻は既に十時を回っていた。
そうしているうちにオフィスフロアには果歩以外誰もいなくなった。
電話してみようかと思ったその時、昴が社長室にやってきた。
「どうして会社にいるんだ?てっきり部屋で待っているものだとばかり……」
「すみません。まずかったでしょうか?」
「いいや、問題ない」
昴はデスクの上にあるリモコンのスイッチを操作し、社長室を囲うガラスを曇りガラスへと変えた。
「話ってなに?」
険しい表情に背筋が寒くなる。
果歩はトートバッグから昴に買ってもらった婚約指輪が入ったビロードのケースを取り出した。覚悟を決め指輪を台座から外し、左手の薬指にはめる。
左手を胸の前で握りしめ、昴に訴える。
「お願い、私にもう一度チャンスをください。この指輪に相応しい人になるから……昴くんに好きになってもらえるようたくさん頑張るから……お願い……」
沈黙は数秒にも数時間にも思えた。
涙ながらに懇願する果歩を見て、昴は面食らったように首の後ろを掻いた。