むふむふ
潔が絶句しているのをいいことに、文藏は勝手に話を続ける。
「いやね儂としちゃどー考えたって周(あまね)ちゃんの方がいいし本当になーんで潔なんだって話で孫にもこれ、申し訳ないっていうかなんていうか」
「……周は男だぞ」
「知っとるがな」
周は潔の弟で、周囲から『かわいい』と大評判の男の子だ。潔の目から見ても弟はかわいいし、周の方がいいと言われればそれはそうだろうと言わざるを得ない。
「むふ! むふ!」と何かを訴えようとしている毛玉を文藏はしわしわの手で撫でながら、「そうかお前も周ちゃんがいいか」と聞こえよがしに嫌味を言う。
「本当に……このふわふわが許婚なのか……私の……?」
潔はいまや混乱の極地にあって、いつものように文藏に言い返すことさえ敵わなくなっていた。動物と結婚って法的に大丈夫だったか? という訳の分からない心配までしだす始末。
「うちのじいさまはなんでまた、このふわふわと私を結婚させるなんて約束を……?」
やっとのことで絞り出すように言うと、文藏は「違う違う」と言った。
「安心せい、さっきも言ったがちょっと訳ありでこういう姿になってるだけで元々は孫同士を結婚させようっつう約束があっただけだわ。いかな正とて、孫娘とふわふわを結婚させようと思ってそんな約束をしたんじゃあない」
訳ってなんだ。ふわふわと結婚ってなんだ。どうしてお前らは妙な約束ばかりするんだ。
言いたいことがあり過ぎて何から言っていいのか分からない。
「というわけで潔、あとはよろしく」
「待て待て待て待てなにがよろしくだ。ふざけるな」
「だからーー孫を人間に戻せば、普通に人間同士結婚できるんじゃないの」
あ、そうかーー。
と、潔は思ってしまった。
勝手に決められていた許婚、しかも当事者たる自分には今の今まで伝えられていなかったーーという部分に抗議する余裕が、毛玉の許婚にインパクトがありすぎて消し飛んだのだ。