むふむふ
それに。
「むふ……」
頭ごなしに拒絶するにはこの毛玉、あまりにかわいすぎる。ぬいぐるみが生きているみたいだ。
「約束……なのだな」
潔はごくりと唾を呑んだ。
「そう。約束だ。潔が16歳になったら、正式に話を進める手はずになっとった」
そうか、と潔は頷いた。
潔はいつからか自分は結婚できないものと決め込んでいた。そのことも、彼女を頷かせる後押しをしたのかも知れない。
「わかった。……一旦、預かる」
文藏は「うむ」と言った。
「それで、その」潔は毛玉ーー無風を眺めながら言う。「何かないのか。彼を人間に戻す手がかりのようなものは」
「どうやら呪いがかかってしまったのだということは分かる」
文藏はそこまで言って、今日一番大きいため息をついた。
「それ以外はなーんにも分からん」
つまりほとんど情報は無いということだ。
文藏だって思いつく限りのことは試したのだろうから、今更潔に出来ることなどほぼ無いだろう。
「本当は人間の姿でお前に会わせるつもりだったんだ。マジで」
「本当とかマジとか言われると途端に嘘くさくなるな……」
潔はすっかり呆れてしまったが。
「無風君」
と、まずは名前を呼んでみる。そして、毛玉の方へそっと手を伸ばした。
「むふ」
毛玉はとてもぎこちない動きで潔の手の中に収まる。抱き上げてみると、想像よりもずっとあたたかく、柔らかくーーそして、少し震えていた。