円満夫婦ではなかったので
(青砥さんと仲良くなれてよかったな……さっきモヤモヤしたのは彼女の元恋人と瑞記が少し似ているからなのかな)
元恋人が後輩を優先したように、瑞記も妻よりビジネスパートナーの希咲を大切にしている。
パートナーを蔑ろにするという共通点に必要以上に感情移入をしてしまい、不快感を覚えたのかもしれない。
自宅最寄り駅で降り、駅前で少し買い物をしてからマンションに向かう。
エントランスが見えて来ると、園香が暮らす部屋のベランダも見える。
「あ、灯りがついてる」
瑞記が帰宅しているようだ。たちまち気分が重くなる。
たまにしか帰ってこないのに、園香が遅くなった時と重なるなんてタイミングが悪い。
(顔を合わせたら嫌味を言って来そう)
憂鬱になりながら玄関ドアを開ける。廊下を進みリビングのドアを開くとスーツ姿の瑞記がソファに座っていた。
(瑞記も帰って来たばかりみたいね)
彼はもちろん園香の帰宅に気付き、じろりと横目を向けて来る。
既に感じが悪く、園香はこっそり溜息を吐いた。とはいえ無視をする訳にはいかないので、声をかける。
「ただいま」
「こんな時間まで何してるんだ? 仕事はパートって言ったよな?」
挨拶代わりにクレームが来たが予想内だ。
「同僚が食事に誘ってくれたから行ってきたの」
淡々と答えながらキッチンに入り、買って来た牛乳などを冷蔵庫に仕舞う。
「へえ、ずいぶん楽しそうだな。でもあまり羽目を外さないでくれよ?」
(こっちの台詞だけど)
園香は聞こえないふりをしてエコバッグをたたむ。