円満夫婦ではなかったので

「おい、聞いてるのか?」

「ごめん、なんだっけ?」

「だから、あんまり羽目を外すなって」

「あーわかった」

反論する方が面倒なので不本意ながら答えた。

園香のそんな態度が不満なのか、瑞記がソファから立ち上り、目を吊り上げて近づいて来た。

「おい! その態度はなんだよ!」

「態度って、普通に返事をしただけでしょ?」

威圧的に見降ろされてカチンとする。少量ではあるがお酒を飲んだせいか、普段よりも感情を抑えるのが難しく、溜まった不満を吐き出したくなる。

けれど瑞記がさらに一歩近づいたとき、園香は開きかけた口を閉じた。

(この匂いって……)

瑞記の体に纏わりつく甘ったるい香に記憶が刺激される。

(どこかで……ああ、名木沢希咲がこんな香を纏っていた)

瑞記は彼女と同僚で近づく機会は多いだろうから移り香があっても不思議はない。

でもこんなに強く感じるのは初めてだ。

(今までよりも近くに寄ったってこと? 隣の席に座るとか一緒に移動する程度ではなく、ぴたりと隙間なく抱き合っていたとか?)

瑞記が希咲を大切そうに抱きしめる姿が脳裏に浮かぶのと同時に青砥の言葉を思い出し、心臓がどくんと跳ねた。

『で、いろいろ問い詰めたら、後輩と付き合ってるって白状したの』

(まさか……瑞記と名木沢さんも付き合ってる? 否定していたけど、実は男女の関係なのだとしたら)
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