円満夫婦ではなかったので
証拠を手に入れる
週半ばの水曜日。

園香は朝の六時に起床して身支度をし、朝食準備に取り掛かる。

「おはよう」

しばらくすると瑞記が起きて来た。昨夜も深夜帰宅だったようで眠そうだ。

彼はあくびを噛み殺しながらダイニングテーブルの椅子を引く。席につくと当たり前のように園香がつくった食事を口にしはじめた。

美味しいともまずいとも反応はない。ひとりで難しい顔をしたり、機嫌良さそうに口角を上げたりと、どうやら自分の世界に浸っている様子。

そんな彼が突然思い出したように顔を上げて園香を見た。

「今日なんだけど、母さんが七時にいつもの店を予約してるから手土産は日持ちするものにして」

「いつもの店って?」

「は? 何言ってるんだよ……」

園香の言葉に瑞記が面倒そうに眉を顰める。

「ああ、覚えてないんだったな……銀座の木蓮っていう店だよ。有名だから調べればすぐに分かる」

「分かった。銀座に七時ならここを六時前に出た方がいいね。瑞記の予定は?」

「俺は直接向かうから、現地で落ち合おう。あ、もう時間がないな」

瑞記は時計をちらりと見ると慌てた様子で席を立ち、バスルームに向かう。

園香は溜息を漏らしながら、テーブルの上にそのままになっている汚れた食器を片付けた。

記憶を失い義父母の顔すら覚えていない妻に、何の気遣いもない夫に失望するということはもうない。
予想通りだと思うだけになっている。

瑞記には、離婚意外はもう何も望んでいないからだ。

(強いて言うなら早く出かけて欲しいくらいかな)

こんな冷めきった夫婦を義父母が見たらどう思うのだろう。

(私と瑞記の家族との付き合いはあまりないみたいだけど)

園香が事故で大怪我をしても見舞にすら来ないくらいだ。

せめて険悪な空気にならないことを祈ろう。
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