円満夫婦ではなかったので
園香が家事をこなしていると、瑞記が慌ただしく家を飛び出して行った。
園香は掃除機を片付け、リビングのソファに腰を下ろす。
瑞記の前では出勤日のように振舞っていたけれど、実は今日は休日だ。
しばらくは何もせずに、瑞記が忘れ物でもして戻って来ないか様子を窺う。
もう大丈夫だと確信できると立ち上がり、瑞記の部屋に向かった。
記憶を失ってからの園香は彼の部屋に入ったことがない。
瑞記は園香が立ち入るのを嫌がっているようで、掃除は不要だから自分の留守中には絶対に入らないようにと強く言っていたからで、せいぜいドアが開いたタイミングでちらりと中の様子を見たことがあるくらいだ。
(でもそんな言いつけを、律儀に守る必要はないよね)
今日は彼の私室を探り、何かないか確認するつもりでいる。
プライバシーの侵害になるが、瑞記と希咲の関係を調べる為は彼についてもっと知る必要があるからだ。
閉じたドアに触れるのに少しだけ躊躇いを覚えながらも、そっとドアを引く。
瑞記の部屋は六畳の洋室だ。奥行のある長方形だが、四方の壁は窓と出入口とクローゼットの戸が有る為、意外と家具の配置が難しそうだ。
瑞記は奥のコーナーにL字型のデスクを配置していた。大き目の机で、パソコンとモニター二台、プリンターが置いてある。自宅でも仕事が出来るようにしてあるようだ。
(その割には家に居つかないけど)
他はシングルベッドとラックが二台。シンプルな部屋だ。
園香はざっと室内を見回してから机に近付いた。ファイルと資料が乱雑に置いてあるが、これといって目を引くものはなかった。
念の為クリアファイルの中身も確認してみるが、全て仕事関係だった。
家に寄り着かず何をしているのか分からないが、仕事はきちんとこなしているようだった。