円満夫婦ではなかったので
(あとはパソコンか……中を見てみたいけど)
電源を入れてみたが、予想通りパスワード入力で阻まれた。
(なんとかしてパスワードを入手しなくちゃ)
よい方法はないか考える一方で、こそこそ家探しをする自分が急に情けなくなってくる。
それでもなんとか気を取り直してラックやベッドの下などの確認を続けるも、不倫を仄めかすものは何もない。
落胆しながら最後にクローゼットの扉を開いた。
すっきりした部屋の印象とがらりと変わり、物が適当に詰め込まれていた。
しっかり元に戻さないといけないので、気をつかいながら何があるのかチェックしていく。
「……あ、これって」
園香は、クローゼットの隅に隠すようにしてあったリーフレットに目を留めた。
A4を三つ折りにしてあるそれを手に取る。
「旅館の案内?」
呟きながら広げてみた。緑の樹々が広がる中に赴きある日本家屋が佇んでいる写真からはじまり、客室や料理の例が続いている。
ぱっと見た感じだけでも高級旅館だと分かる。
瑞記はこの旅館に泊ったのだろうか。
「全室離れで露天風呂付か……」
仕事で使うには無駄に豪華すぎる。
(もし仕事だとしても、名木沢さんと一緒だったんでしょうね)
この離れにふたりで泊っていた証拠があれば、仕事と言い逃れするのは難しそうだ。
とはいえあくまで想像だ。リーフレットがあるだけでは実際泊った証拠にはならない。