円満夫婦ではなかったので
「アポイントなしで申し訳ない」

妻の不倫相手の配偶者の顔を見に来た。などの思惑は感じられない爽やかさだ。

「いえ、お気になさらないでください」

園香は戸惑いながら挨拶を返した。テーブルを挟んだ正面に腰を下ろし、清隆を見つめる。

以前彼について調べたとき、顔写真を見てかなりの美形だと感じたが、実物はそれ以上で圧倒されそうになる。

少し目じりが上がった涼し気な目元に、高い鼻梁、絶妙な位置にあるきりりとした眉に、とびきり形がいい額。眉目秀麗とは彼の為にある言葉だと思った。

つい見惚れてしまいそうになる気持ちを抑え、園香はやや目を伏せた。

「改めまして、富貴川園香と申します」

作成したばかりの名刺を差し出す。するとなぜか彼は意外そうな顔をした。しかしそれは一瞬ですぐに柔和に微笑み、自分も名刺を取り出した。

交換が終わると沈黙が訪れる。訪ねて来たのは清隆の方なのだから彼から話があると思っていたのに、そうではなさそうだ。

「あの、今日はどのようなご用件で?」

気まずい空気に耐えられず園香から切り出した。

「あ、そうですね。当社の製品はどうですか?」

「……動作は順調ですし、お客様からもの評価も上々だそうです。よかったら詳しい者から報告しましょうか?」

そう言ったものの、清隆の目的は他にあるような気がした。

(ロボットの確認なら私を名指しする必要はないもの)

そもそもCEO自ら、自社製品の顧客満足度調査などするのは不自然ではないだろうか。

思った通り、清隆は首を横に振った。

「いえ、富貴川さんに説明頂ければ問題ありません」

「ですが私はこの職場に配属になり日が浅く、お役に立てるとは思えませんが」

「……富貴川さんは社長のご息女だと伺っています。旧姓空岡園香さんですよね?」

「え、ええ。その通りですが」

園香は内心首を傾げた。予想とは違う方向に話が進んでいる。
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