円満夫婦ではなかったので
(お父さんと繋がりを持ちたいとか?)
ロボットを採用した横浜ショールームに社長の娘がいると情報を得てやってきたのだろうか。
(いや、それもないか)
もし本当に父と繋がりを持ちたいのなら、もっと有効な方法がいくらでもある。
KAGAURAは日本でも有数の大企業神楽グループの一企業で彼は創業者一族なのだから。多くの伝手があるはずだ。
「ソラオカ家具店のショールームはここと関西の二か所だけと聞いてますが、東京に展開する予定はないのですか?」
「今のところその予定はありません」
また話が変わった。怪訝に感じながらも返事をする。
「本社もありますし品川あたりがよさそうですね、どう思いますか?」
「私は新店の企画をする立場ではありませんので。担当部署をご案内いたします」
新店にロボットを導入するよう営業したいのだろうか。
清隆の考えがまるで分からず、園香は戸惑うばかりだった。
その後も意図が掴めない質問が続いた。
しかし不思議と感じは悪くないため、警戒するべき相手なのに気付けば口数が増えていた。
(なぜか話しやすいと感じる……上手く話題を広げてくれるし、CEOって肩書の割に腰が低いからかな?)
先入観が無ければ、立場に驕らない気さくなよい人と思ったかもしれない。
「もうこんな時間ですね。そろそろお暇します。忙しいところありがとうございました」
「いえ、お役に立てたのでしたら幸いです」
席を立つ清隆を見送る為、園香も立ち上がり出入口に向かう。
「本日はありがとうございました。お気を付けてお帰りください」
園香の言葉に頷いた清隆が、ショールームのエントランスを出て駅方面に足を向ける。
しかし数歩歩いたところで、くるりと振り向いた。
「園香さん、近い内にまた」
「えっ?」
「次は事前に連絡します」
突然下の名前を呼ばれ驚く園香に、清隆は何を考えているのか分からない笑みを向けてから去って行った。
「どういうこと?」
園香は混乱して呟いた。
(次はって、また来るってこと?)
一体何の用があると言うのだろう。それに今日だって結局彼が何をしに来たのかはっきりしなかった。