円満夫婦ではなかったので
「やっかいだな」
「そうなの。不倫していたとしても証拠を取るのが本当に難しい。あとは日記とか、出来事を記録したものくらいかな」
「日記が証拠になるのか? そんなの後からいくらだって書けるから不正し放題だろ」
彬人は疑うような目で園香を見る。
「不正されてないかしっかり調べて証拠として認められるか判断するらしいよ。誤魔化してもばれるんじゃないかな」
「なるほど。園香の日記は証拠として使えそうなのか?」
「最近は日記をつけているけど、瑞記と離婚について話した後のものしかないから、あまり役に立たないんだよね」
たとえ外泊の記録が有っても、妻に離婚を切り出されたから帰れなかったと瑞記は主張するだろう。
(やっぱり以前の記録が必要だったな)
「以前も日記を書いてたんじゃないのか?」
「ううん。そんな習慣無かったよ」
「……そうか」
彬人が釈然としないような浮かない表情になる。
「何か気になってるの?」
「いや……離婚が成立したらどうするんだ?」
「まだ具体的には考えていないけど、正社員になって仕事に集中したいかな」
「再婚は?」
どこかきまずそうな彬人の問いに、園香は瞬きをする。
「……そんなの考えたこともなかったけど、もう結婚はいいかな」
覚えていないけれど、瑞記と結婚したときは希望に溢れていたはず。少なくともこんな未来が訪れるなんて考えもしなかっただろう。
きっと幸せな暮らしを思い描き、それでも失敗した。
「瑞記とは何もかもが合わなくて、今は離婚したい気持しかないけど、不仲になったきっかけは分らない。私に原因があるかもしれないんだよね」
園香が問題行動を起こし夫婦仲が悪化した可能性だってあるのだ。瑞記の方こそ園香に失望して、希咲に気持ちが向いたのかもしれない。
本当は瑞記と話し合いをしてお互いの不満を解決して行けたらよかったのだろうが、もう手遅れだった。
どちらもやり直す気持ちがなく、相手に対する優しさも持てない。
「どうしてこうなったのか知りたいな。そうじゃないとまた駄目になりそう」
長い人生の中の一年くらい、忘れてしまってもなんとかなると思っていた。
けれど、自分の気持や考えが分からない時期が有ると言うのは想像以上にもどかしく不安を感じるものだ。
状況に順応しようとしていても、不意に何もかもリセットしたい衝動がこみ上げるときがある。
(一年前からやり直したい)
それは無理だと分かっているけれど。
「いつか記憶が戻ったら、再婚したくなるかもしれないね」
「そうか」
彬人は納得がいかないような浮かない表情だったが、特に何も言わなかった。
そんな彼の態度に園香は安心したのだった。