円満夫婦ではなかったので
「なくしちゃったのかな……」
引っ越しの際に誤って捨ててしまったのかもしれない。
手間だが再発行しに行くか、この機会にオンライン口座に変更するしかないなと園香は溜息を吐いた。
部屋を汚しただけの無駄骨になってしまった。
「こほっ」
埃っぽくて咳が出る。掃き出し窓を開けた。
続いて引き出しを戻そうとしたそのとき、園香はふと机に違和感を覚えた。
ノートパソコンを置いてある机は、非常にシンプルなデザインで一見変わった点はない。けれど園香の心臓はどくんどくんと大きく音を立て始めた。
(どうして今まで気付かなかったんだろう)
デスクの天板の下を確認する。隅の方に小さな引っかかりがあった。それを引っ張ると天板の下部分がぱかりと開いた。
「やっぱり!」
予想が辺り、園香は高い声を上げた。
隠し収納付きの家具があることは、もちろん知っていた。一般的な商品ではないが、ときどきそういう機能を求める人がいる。
でも園香個人としては関心がなかった。自分には家具に隠したい秘密などないし、遊び心もなかったから。
だが記憶がない間に自分はそれを必要とするようになっていた……。
隠し収納に仕舞われていたのはブラックレザーのカバーのノートだった。厚みはないがA6くらいの大きさで、肌ざわりがいい。
一体このノートに何が書かれているのか。
緊張しながら表紙を捲る。
パラパラと何枚かページを捲った園香は、驚きに目を見開いた。
このノートこそが、記憶の空白期間に園香が書いた日記だったのだ――