円満夫婦ではなかったので
【二月二十五日 嫌がらせ電話が止まらない。
始まったのは名木沢さんと会った次の日から。
彼女がかけているのかもしれない。
でも瑞記は私の言葉を信じてくれない。
頭がおかしくなってしまいそう】
【三月五日 スマホを機種変更した。データが消えてしまった
新しい机を買った。ここに日記を仕舞っておこう】
相変らず日付が飛んでいる。
明記されていないが、嫌がらせは解決したのだろうか。
当時の園香が考えていた通り、犯人はタイミング的に希咲の可能性が高い。
突然スマホの機種変更をし、新しく机を買うという行動が気になる。
何らかの事情でいろいろなデータが入った携帯が駄目になったから、日記まで失わないように隠し収納付きの家具を買ったようにも読める。
出来事の詳細も感情も記されていない短文なのが、精神的な余裕の無さを感じて不気味だ。
【三月十五日 彬が訪ねて来た。連絡が取れないから心配してくれたそうだ。
彼の顔を見たらほっとして泣いてしまった。
離婚した方がいいと言われた。
その方がいいかもしれない。でも決心がつかない】
【四月十四日 名木沢希咲の夫である名希沢清隆氏に連絡をした。
迷惑そうにされたけれど、なんとか会う約束を取り付けた。
三日後にグランリバー神楽で。そこに彼のオフィスがあるらしい。
偶然だけど誕生日だ。けじめをつけるにはいい日かもしれない。
これで駄目なら諦めて離婚しよう。
一番辛いときに瑞記が助けてくれたから、自分から彼を拒否するのが辛い。
彼は誰よりも寛容な人だと思っていた。でもそれは間違っていたのかもしれない。
決心したから少し気が楽になった】
日記はここで終わっていた。
園香の心臓は全力疾走した後のようにどくどくと煩く跳ねている。
知り得た情報の量とその内容の衝撃さに、息苦しさを覚える程だ。
(グランリバー神楽……)
園香が階段から転落して記憶を失った場所。
なぜそんなところに居たのかずっと疑問だったけれど、ようやく謎が解けたのだ。