円満夫婦ではなかったので
「な、なに言ってるんだよ……くだらないこと言うな!」

瑞記は始めはしどろもどろに、だんだん怒りが戻って来たのか最後は殆ど叫ぶように大きな声を出す。

「くだらないって私は名木沢さん本人から聞いたんだけど?」

「は?」

余程予想外の発言だったのか、瑞記が半笑のような表情になる。

「いやあり得ないだろ? どうして希咲がそんなことを言う必要があるんだ! だいたい園香と希咲がいつ会ったんだよ!」

瑞記の表情からは不安が読み取れる。大声を上げるのは虚勢を張っているからなのかもしれない。対して一度どん底まで沈んだ園香の心は簡単には揺らがない。彼を観察するだけの余裕がある。

「二月十日」

「え?」

「彼女がここに来たの。瑞記との不倫の件はそのとき聞いたわ」

瑞記の視線が落ち着きなくあちこち彷徨う。

記憶を探っているのか、または何か言い訳を考えているのか動揺が隠しきれていない。


やがて彼は冷静になったのか園香をきっと睨み口を開いた。

「どう考えても希咲がわざわざそんなことを言いに来る必要がない。嘘をつくな」

「嘘じゃないけど。彼女が突然訪ねて来たのは、二月八日に私と瑞記が大喧嘩したから。私はそのとき既に瑞記と名木澤さんの関係を疑っていて、かなり問い詰めたよね。瑞記は私との喧嘩の件を名希沢さんに報告したんじゃないの? 彼女は私に余計なことを言うなと釘を差しに来たんじゃないのかな?」

「……希咲がそんなことをする訳がない! 彼女は俺の離婚を望んでいないんだから!」

瑞記の叫びに園香は片眉を上げた。

(この言葉は本気に見える。もしかしたら名木沢希咲に離婚しないように言われてるの?)

頑なに離婚を拒否するのは世間体ではなく、希咲の意向だった?

事実をなんとか聞き出せないかと、園香は何を聞くべきかと慎重に思考を巡らす。


< 123 / 170 >

この作品をシェア

pagetop