円満夫婦ではなかったので
心臓がドクンと不快な音を立てる。

取り繕えないほどの嫌悪感がこみ上げ、園香は手を握り締めた。

「先日に続き、突然訪ねて来てしまい申し訳ない。急ぎ確認したいことが有るんだ」

名木沢は爽やかな笑顔を園香に向けたが、段々と不審そうな表情に変わっていく。

「もしかして気分が優れないのか?」

彼は心配そうに眉を顰め、園香との距離を更に縮めようとした。

その親切そうな様子に、かっと苛立ちがこみ上げて、園香は名木沢を睨みつけた。

園香に近付こうとしていた名木沢は、その様子を見て、はっとしたような表情になりその場で立ち止まる。

前回会ったときとは違う、園香の変化に気が付いたのだろう。

園香は小さく息を吐いた。

(冷静にならなくちゃ)

彼には強い怒りを感じている。けれど感情的になってもすっきりするのはその場だけ。

罵倒なんてしたら後々園香の不利になる。淡々と仕事として対応するべきだ。

そう自分に言い聞かせていたが、ふと思った。

(別に彼と関係が悪くなってもいいんじゃない?)

ソラオカ家具店は彼の会社の顧客の立場だから、トラブルで仕事を切られる心配はしなくていい。神楽グループまで話を広げると、様々な問題が出て来るだろうが、そもそも名木沢の妻が園香の夫と不倫をしているのが発端なのだから、彼としても大事にはしたくないだろう。

(そうだよ。私はこの人に必要以上に遠慮しなくていい)

短い時間にそう結論すると、園香は名木沢を拒絶の意志で見つめた。
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