円満夫婦ではなかったので

(瑞記は、私と離婚話が持ち上がっているとうことを、希咲さんに言ってないかもしれないから)

「必要なら、俺が持っている情報を共有してもいい。離婚の交渉のときに役に立つだろう」

「え、いいんですか?」

園香は驚き目を見開いた。

それは、喉から手が出るほど欲しいものだから。

弁護士に依頼して、離婚を拒否する瑞記との交渉を進めているが、不倫の状況証拠しかないのがネックになっていたのだ。

「ああ。園香さんの事故について調べはじめたときに、妻も調査対象にした。君の夫と会っている証拠もとれているはずだ」

「できたら頂きたいです!」

まさか名木沢から証拠が得られるとは思っていなかったから、園香は椅子から腰を浮かせてしまう程気持ちが舞い上がってしまう。

「分かった。今は手元にないから、後日また会おう。それまでに用意しておく」

「ありがとうございます」

園香は名木沢に深く頭を下げた。

まだ心臓がドキドキしている。

(これで離婚できる。誰が見ても文句が言えない証拠さえあれば、瑞記も抵抗出来ないんだから)

名木沢から情報を貰えたら、すぐに弁護士に動いて貰おう。

事故に遭い記憶を失ってから、いつも心に憂鬱さを抱えていたけれど、これでようやく解放される。

独身に戻って一からやり直そう。

園香は名木沢と別れると、久しぶりに心底すっきりした気分で帰宅した。

< 140 / 170 >

この作品をシェア

pagetop