円満夫婦ではなかったので

「遅くなってすまない」

彬人がやって来たのは、通話を終えてから三十分後のことだった。

「全然遅くないよ。入って」

「ああ」

「お茶を淹れてくるから、適当に座ってて」

彬人は慣れた様子でリビングルームのソファに腰を下ろしたが、どこか浮かない表情だった。

ただの様子伺いの電話だったのに「大事な話があるから」と園香に呼び出されたから、警戒しているのだろう。

園香はキッチンでふたり分の紅茶を淹れ、頂き物のクッキーと共にお盆に並べて持つと、彬人のもとに戻った。

ローテーブルにそれらを並べて、彬のはす向かいの椅子に座る。

「何か有ったのか?」

彬人が紅茶に手も付けずに聞いてきた。

様子伺いなどないストレートさが彼らしい。園香は頷いた。

「実は少し前に以前の日記を見つけたの」

「え? 日記は書いてなかったんじゃなかったのか?」

「習慣はなかったんだけど、瑞記とのことで悩んでいたからか、記録していたみたい。彼に見つからないようにか、厳重に隠してあったから気付くのが遅れたんだけど」

「そうなのか……それで、離婚の証拠になりそうなのか?」

「決定的ではないけど、証拠のひとつにはなるって……日記にはいろいろなことが書いて有ったけど、彬についても書かれてた」

彬人がはっとしたのが伝わってきた。彼は眉間にシワを寄せた苦悩の表情で「そうか」と呟いた。

園香が何を言おうとしているのか察したのだと思う。
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