円満夫婦ではなかったので

「彬は私たち夫婦の仲が最悪だったこと、初めから知っていたんだね」

「……いや、俺は夫婦仲については殆ど知らなかった。園香からも詳しい話を聞いたことはない。ただあまりに憔悴して精神的に不安定に見えたから別居か離婚をした方がいいと言ったことがある。名木沢希咲が問題のある女だと知っていたこともあったから心配だった」

日記に“彬が心配して訪ねてきた”と書いて有った。その日のことだろう。

「不仲について知っていたのに話さなかったのは、俺も迷っていたからだ。記憶を失ってからの園香は、精神的に安定していたし、夫婦仲を改善する気に見えた。上手くいくならそれが園香の為なのかもしれないと思ったんだ」

「私のため?……ああ、そう言えば私、結婚前は瑞記が大好きだったみたいだものね」

周囲には結婚を反対されたのに、園香は耳を傾けず押し切ったくらいだ。

彬人が対応を迷うのは無理もないことだ。

「はあ……私、どうしてあの人のことを好きになったのかな。」

園香は心からの疑問を吐き出してから紅茶のカップを手に取った。

彬人が答えられるはずがなく、困ったように肩をすくめる。
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