円満夫婦ではなかったので
けれど、震えた声で必死に訴える彼女の声を聞いているうちに、気持ちが変わっていった。
彼女は、名木沢が想像できない程に悲しんでいると気付いたからだ。
夫を深く愛しているからこそ、酷く苦しんでいる。
明らかに限界で、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
その原因は自分の妻にある。
放っておけないと思った。
だから会って話がしたいと言われて、了承した。
それなのに、彼女は約束の時間になっても現れず、キャンセルの連絡も入らなかった。
面識のない名木沢に会うのに直前で怖気づいたのか、または行動をする勇気がなくなったのか。
なんにせよ、名木沢に会う必要がなくなったのならよいことだ。
釈然としない気持ちもあったが、名木沢は園香のことを忘れて日常に戻った。
その後、園香の事故を知るまでは。
(あれから約半年か……)
夫への想いを割り切るのに半年という時間は十分なのだろうか。
名木沢は園香のように誰かを愛したことがないから、分からない。
それでも彼女の割り切り方は、不自然な気がしている。
(記憶喪失になったことが影響しているのか?)
考えに沈んでいると、苛立ったような女の声がした。