円満夫婦ではなかったので
名木沢は思わず顔をしかめた。

「監視しているのか?」
「やだ、そんな怖い顔しないでよ」

希咲は馬鹿にしたように吹き出した。

無礼な態度だが、希咲がこういった態度を取るのは、何かを誤魔化そうとしているときだ。

不本意ながら、名木沢は希咲のことをそれなりに理解している。

(もしかしたら冨貴川瑞記が、自分の妻を監視しているのかもしれないな)

あの男は不倫をしながらも、自分が不利な離婚を避けようとしているのかもしれない。

名木沢は瑞記の人柄を直接知っている訳ではないが、以前連絡してきたときの園香の弱り方を思い出すと、ろくな夫ではないだろうと想像できる。

「ねえ、無視しないでよ」

希咲が名木沢の腕を掴んだ。払いのけたい気持ちを抑えて、そっと手を引いた。

「お互いプライバシーには干渉しないんじゃなかったのか?」

「基本的にはそうだけど、離婚となったら話は別でしょう?」

「……俺はそろそろ離婚を考えるべきだと思ってる」

「えっ?」

希咲が大きく目を見開く。
彼女のことだ。自分から離婚の話を振っても、心の底では名木沢は離婚出来ないと高を括っていたのだろう。
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