円満夫婦ではなかったので
面白いくらい動揺している園香。
もう少し困らせたくて、瑞記との関係を匂わせてみた。
『私と瑞記は、お互いなくてはならない、特別な関係なんですよ』
『えっ……』
園香は絶句していた。
その後は話にならなかったが、希咲は上機嫌で帰宅した。
園香はきっと、今日のことを瑞記に言いつけるだろう。
けれど、希咲は一言も“不倫をしている”とは言っていない。
実際体の関係はないのだから、瑕疵はない。
園香が勝手に思い込んでいるだけ。
(きっとますます喧嘩するだろうな)
想像すると、園香への恨みがすっと消えていくようだった。
ところが予想外に、園香が瑞記に言いつけた様子がない。
それとも、瑞記が”いつもの妻のヒステリー”と、園香の訴えを聞いても相手にしていないだけだろうか。
どちらにしても自分が望んだ反応ではなかった。
(気にいらない)
希咲はその日から、園香に無言電話をかけ続けた。
自分でもおかしな行動だと分かっているが、なぜか止められなかったのだ。
三月に入ると、瑞記は想定していたよりも遥かに希咲に執着するようになった。
その分、園香を疎ましがるようになり、更には無関心になっていった。
希咲から話題にしないと、愚痴すら言わない。
(つまらない)
希咲は別に瑞記と仲良くしたい訳じゃないのだ。
相手をするのが面倒だと思う時もあるくらいだ。
最近は仕事まで疎かになっているし。
そんな風に思っていたときのことだった。
仕事の帰りに、偶然昔の不倫相手を見かけた。