円満夫婦ではなかったので
『ねえ、この前一緒にいた人なんだけど』
『この前? ああ、彬人のこと?』
『そうそう。彼は中山君の同僚らしいけど、すごく仲が良さそうだったね。私たちのことを知っていたみたいだし』
『あ……うん。同期で気が合うんだ。俺がへましてフォローしてもらうばかりだけど』
中山が自虐的に笑う。きっと事実なのだろうと希咲は思った。あの僅かな時間でも、中山と彬人は対等に見えなかった。
『しっかりしてそうだったもんね。出世で負けちゃいそう?』
上目遣いで聞くと、中山が頬を染めた。
『あ、ああ。でもそれは当然なんだ。彬人は社長の親族だから』
『えっ、そうなの?』
思いがけない情報に、希咲は本気で驚いた。
『……ということは、空岡園香さんとも親戚?』
『もちろん、そうだね』
『仲がいいのかな?』
『ああ、会社でもよく話してたよ。確か再従兄(はとこ)だったかな』
『ふーん……』
希咲に敵意を向けてきた彬人が、園香の親族だったとは。
『もしかして、園香さんも不倫のこと知ってるのかな?』
『知らないと思う』
『本当に?』
『彬人は口が堅くて信頼できるやつだから。いくら園香さんと仲がよくても俺の不倫については言うはずないよ。心配しなくても大丈夫』
能天気な中山は完全に彬人を信じ切っている。
たしかに彼は口が堅そうだ。中山のように流されることはないだろう。味方に居れば頼りになるが、敵にしたら厄介なタイプ。
今のままでは、彬人は園香の心強い味方になるかもしれない。
(それは許せないよね)
『ねえ中山君、私と彬人君が会えるようにしてくれないかな?』
『えっ、どうして?』
『不倫の件は口外しないでくださいって、私から直接お願いしたいの。実は、すごい偶然なんだけど、私の上司が園香さんの夫なの。だから絶対に不倫の件を知られたくなくて』
中山が驚愕の表情を浮かべる。