円満夫婦ではなかったので

「今の家についても何も覚えてないし。自分の家に帰るだけなのに緊張してるの」

「富貴川はなんて言ってるんだ?」

「あまり深刻には考えてないみたいだけど……彬は瑞記のことを知ってるの?」

富貴川と呼び捨てた感じが、良く知った相手に対するもののように聞こえた。

「……ああ。園香と富貴川の出会いについては?」

「聞いた。父親同士が友人で仕事でも関わりがあり、その縁でのお見合いだって」

鏡の中の彬人が頷く。

「叔父さんは俺にも富貴川を紹介したんだ。それで面識がある」

「そっか……考えて見たら彬と瑞記が知り合いでもおかしくないわ」

彬人は血が遠いとはいえ親族。しかもソラオカ家具店の社員なのだから。

園香は助手席のシートを掴み身を乗り出した。

「ねえ、彬人は私と瑞記の夫婦仲について何か知ってる?」

園香の言葉に彬人は訝し気な表情になった。

「なぜそんなことを聞くんだ?」

「だって今の私は夫について殆ど何も知らない状態なんだもの。どんな夫婦だったのか、結婚前の付き合いの様子とか、私から聞いたことがあったら教えてくれない?」

「それは富貴川に聞いた方が間違いないんじゃないか?」

「……彼は仕事が忙しくてあまり顔を合わせる機会がないの」

「病室に来ないのか?」

「三回くらいは来たけど」

彬人が僅かに目を見開く。それから「叔母さんが言ってたのは大げさじゃなかったんだな」と呟いた。

しばらく何か考える様子だった彬人は「あくまで俺の主観だけど」と言いながら園香と瑞記の印象について語り始めた。

「見合いから結婚までがあまりに早くて俺は少し心配だった。でも園香は大丈夫だと言っていた。結婚を急いでいる様子に見えた」

「私が結婚を……どうしてか知ってる?」

「そこまでは聞いてない。富貴川と夫婦になりたいからだと思ってた」

彬人の意見はごく普通のものだけれど、ピンと来ない。

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