円満夫婦ではなかったので
住まいは横浜の山の手にある低層マンションだった。
白い壁の清潔感がある外観で、敷地内には緑が豊富。駅から距離は有りそうだがなかなか住み心地が良さそうなところだった。ただ専業主婦になった園香と、起業二年目の不安定な収入の瑞記で借りられる物件には見えない。
(格安なのはいわくつきの部屋だから、とかだったらどうしよう)
そんな心配をしながら203号の部屋のインターフォンを鳴らした。
先に到着していた瑞記がドアを開けて出向かえてくれる。
「お帰り。彬人は久しぶり」
瑞記は最後に会ったときとは正反対の機嫌の良さだ。
「た、ただいま」
今の園香にとっては初めての部屋。ただいまと言ったものの違和感がある。
そのときふわりと印象的な甘い香りがした。
(何の香りだろう)
気になりながら彬人と一緒に玄関に入ったそのとき、園香ははっとして体を強張らせた。
瑞記の後ろに隠れるように誰かがいる。
じっと見ていると、女性が前に進み出た。
甘い香りが強くなる。
園香の前に立ったのは、ほっそりとした、とても美しい女性だった。