円満夫婦ではなかったので

「園香、返事くらいしたらどうだ?」

「……ごめんなさい、お客様がいらっしゃると知らなかったので驚いてしまって。名木沢さん失礼しました」

本当は謝りたくなんてなかったが大人として失礼な態度であったのは自覚している。

(電話で話したときに瑞記が言ってくれたらよかったのに)

園香は彬人が一緒だとちゃんと伝えている。必要な情報だと思ったからだ。

夫はただ気遣いが出来ないだけなのだろうか。

(それともわざと?)

文句を言わせない為に、事前に知らせなかったのだとしたら……。

「瑞記、奥様の親戚の方も紹介して」

考え込んでいると、再び希咲の声が耳に届く。

「ああ。彼は白川彬人。園香の遠縁なんだ。ソラオカ家具店の社員で将来の重役候補だって言われている」

「それはすごいわ。彬人さん、改めて名木沢希咲です。仲良くしてくださいね」

希咲はそう言って女の園香でも見惚れてしまう華やかで甘い笑みを見せた。

とくんと心臓が跳ねる。この状況に既視感があったのだ。

(なんだろう。以前も同じようなことがあった?)

「初めまして白川です」

でも彬人と希咲は初対面のようだ。

なぜか落ち着かない気分になり戸惑っていると、彬人が瑞記に向かって口を開いた。

「部屋で話したらどうだ? 彼女は退院したばかりだから立ったままでは負担になる」

「ああ、そうだな。二人とも上がって」

瑞記に促されて玄関から繋がる廊下を進む。突き当りの扉の先は広めのリビングだった。

< 30 / 170 >

この作品をシェア

pagetop