円満夫婦ではなかったので
白い珪藻土の壁にライトブラウンのフローリング。ラグとカーテンと布張りのソファはライトグレー。派手さはないがシンプルで清潔感のある印象の部屋だと感じた。ただ特別好みとも思わない。

(このインテリアは夫婦で決めたのかな)

生活していた部屋を見たら記憶が戻るきっかけになるかもしれないと思ったけれど、ぴんと来るものはなくて落胆した。

「園香がソファに座っていいよ。彬人はそっちでいいか?」

瑞記は園香には三人掛けのソファを示し、彬人はオットマンに座るように促した。自分はラグの上に直接座る。

怪我が治っていない園香と客人の彬人に椅子を譲ってくれたのには気遣いを感じて、久しぶりにほっとした気持ちになった。

「ありがとう」

「いいよ。気にしないで」

瑞記も穏やかに微笑んで答える。

(私がにこやかにしてると瑞記の機嫌もよくなるみたい)

失礼だと感じる瑞記の態度は、園香側にも問題があるのだろうか。

(彼との愛情が思い出せないから些細なことが気になるのかな)

もっとおおらかになれば、この先の夫婦生活が上手くいくかもしれない。

「あの、瑞記に聞きたいことがあって……」

「あ、ちょっと待って。お話の前にお茶を淹れちゃいますから」

瑞記に話しかけたのと同時に、希咲の声が割り込んだ。

「え?」

「すぐに戻るので」

希咲はそう言うとキッチンに向かう。慣れた様子に園香は思わず眉を顰めた。
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