円満夫婦ではなかったので
「瑞記、名木沢さんはよく家に来るの?」
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
瑞記の声が警戒したように一段低くなる。
(まただ。私が名木沢さんの話をすると彼はすぐに警戒する)
「お茶を淹れるのに勝手がわからないと困ると思ったから」
「ああ。それなら大丈夫。仕事の帰りに何回か来て貰ったことがあるから」
「……そう」
せっかく前向きになった気持ちが早くも萎んだ。
(私は彼女の出入りを容認していたのかな)
その可能性は低い気がする。
希咲の人柄はまだつかめないものの、なんとなく苦手なタイプだとも感じているのだ。
でもその気持ちを瑞記に言っても、きっと伝わらないし、ぎくしゃくするだけ。
「……私の部屋はどこなの?」
園香は希咲について意見を言うのはひとまず諦め、話題を変えた。
それぞれが個室を持っていると聞いているから、早く自分の部屋を確認したい。
「そこだよ」
瑞記が指さしたのは園香の背後だった。振り向くと引き戸の扉があった。扉を外してリビングの一部として仕えるよくある造りの部屋のようだ。
「瑞記の部屋は?」
「俺は玄関の側」
「そうなんだ」
夫婦と言うよりルームメイトのようだと思った。
「お茶を飲んだらゆっくり部屋を見たらいいよ。何か思い出すかもしれないからね」
「ありがとう。そうします」
園香はすっかり疲れた気分で頷く。彬人はさっきからずっと口を挟まずに園香たちのやりとりを眺めていたが、どこか浮かない表情に見えた。
「お待たせ」
微妙に気まずい空気を破るように、明るい声と共に希咲が戻って来た。
彼女は湯気を立てたカップをテーブルに並べると、瑞記と同じようにラグの上に直接座った。