円満夫婦ではなかったので
なぜだか彼女が既婚者だとは少しも考えていなかったから。
彼女の生活感を一切感じさせない雰囲気や、遠方までも出張に行くとう情報から、独身だと思い込んでいたのだ。
都会の広々としたワンルームに一人暮らしをしているイメージを、勝手に広げていた。
園香の驚きようがおかしかったのか、瑞記と希咲は目を合わせてくすりと笑った。
「園香、彼女の夫はKAGURAのCEOの名木沢氏なんだよ」
「えっ? KAGURAってロボット産業業界最大手の?」
神楽グループの中でも最近特に勢いがある企業だ。以前KAGURAが開発した人型の作業ロボットについての特集を雑誌で見たことがある。
園香は今日何度目かの驚きに、唖然としていた。
(名木沢さんが結婚していただけでなく、そんなすごい人の奥さんだなんて)
ますます分からない。
(名木沢さんはどうして瑞記とふたりきりの会社で働いているの?)。
聞いた限りではかなり多忙で休みは少ないようだ。彼女の夫は働き方について何も言わないのだろうか。
「驚いただろ?」
瑞記の言葉にはっとして「ええ」と頷く。
「彼女は俺たちの仕事にやりがいを感じて尽くしてくれてるんだ。そこに疚しい気持ちなんて少しもない。純粋に頑張っている。だから園香にも分かって欲しいんだ」
瑞記が園香をじっと見つめて答えを待っている。
「……分かりました」
他に返事のしようがなかった。
「あの、私にも出来ることがあったら何でも言ってね。家族として少しでも力になりたいから」
「ああ、分かった。ありがとう」
瑞記が嬉しそうに答えた。