円満夫婦ではなかったので
見ていて気分の良い態度ではなく園香は眉をひそめそうになったが、なんとか堪えて瑞記から目をそらした。
(私を心配して怒ってくれているのかもしれないもの)
それなのに自分までイライラしたら駄目だ。
(冷静にならないと)
「心配してくれてありがとう。でも怪我は大分よくなっていて健康上の問題はないから大丈夫」
「そうだとしても働く必要はないだろ? 僕が毎月きちんとお金を入れているんだし」
強い口調でそう言う瑞記は、どこか園香を見下すような目をしているように見えた。
確かに彼はお金を入れてくれている。実家から戻った日に今月分を振り込んだからと言われたので園香の個人口座を確認してみると、六万円が振り込まれていた。
それで食費と日用品と園香の小遣いを賄えと言うことらしい。
家賃や光熱費などは別途瑞記が支払っているらしく、暮らしていくのに困らないようにようにはしてくれていた。
けれど、園香はそのときとても憂鬱になったのだ。気分が塞ぐと言うのだろうか。今もまた同じような感覚に陥っている。
「お金を入れてくれるのはありがたいと思ってるけど、私が仕事をしたいのは経済的な理由だけじゃないから」
「どういうこと?」
瑞記はなぜここまで園香が働くことに反対するのだろう。普段は関心が無さそうなのに。
「社会活動をしたいというか……私はこの家に越して来てからの記憶がなくて近所に友人も知り合いもいないし、ひとりで引きこもっているよりも、外に出たいと思ったの」
「そんな理由で」
瑞記ははあと大きなため息を吐いた。いかにもうんざりしたその様子に、園香もさすがに苛立ちを抑えるのが難しくなってくる。