円満夫婦ではなかったので
むっとした表情で黙り込むと、瑞記は園香の態度の変化に気付いたのかますます不愉快そうな顔になった。
「その話は保留にして。少し考えるから」
園香は驚き目を見開いた。
「どうして?」
「どうしてって、納得がいかないからだよ」
瑞記は園香と同じくらい驚きの表情を浮かべている。まるで園香の反論が信じられないとでも言うように。
「保留には出来ない。もう決定事項で展示場の方も私が入社する予定で調整しているから」
「は? なんだよそれ。もう決まってるなら僕にいちいち報告する必要なかっただろ?」
「必要はあるでしょ? 一緒に住んでいるんだし」
「そう思うなら確定する前に報告しろよ!」
瑞記はガタンと椅子を鳴らして立ち上がった。
「どこに行くの?」
食事も中断したままになっているのに。
「仕事に決まってるだろ?」
「まだ話の途中なのに?」
「これ以上話しても仕方ないから。僕は園香が働くことに絶対反対だから」
はっきり言う彼からは、一切譲歩しないという意思が伝わって来た。
「……瑞記が反対しても仕事はするから。家事はしっかりやるし迷惑はかけないわ」
「は?」
瑞記は驚愕したように顔をひきつらせた。それからしばらくすると怒りが滲んだ目で園香を睨む。
「園香は変ったね」
「え?」
「記憶を無くしてからまるで別人だよ。以前は僕の意見を蔑ろにしたりはしなかった」
園香は言葉に詰まって視線を落とした。
蔑ろにしているつもりはなかったけれど、 瑞記の目には相当酷い態度に映っているようだ。