円満夫婦ではなかったので
◇◇
「瑞記、怖い顔をしてどうしたの?」
いつの間にか考えに沈んでいたようだ。顔を覗き込まれながら、そう告げられた瑞記は、大げさなくらい驚いて体を震わせた。
その様子を見て、希咲が笑う。
「やだ、今びくってなってたよ?」
花が咲くような艶やかな表情だ。
瑞記は胸中に燻る何かがすっと消えていくような穏やかな気持ちを感じながら、苦笑いを浮かべた。
「希咲が驚かすからじゃないか」
「だって瑞記ったら何度呼んでも返事をしてくれないんだもの」
希咲が少し怒ったように頬を膨らませる。
「え? ごめん、気付かなかった」
「もう……次はないからね」
「ああ」
彼女と喧嘩なんて絶対ごめんだ。瑞記は両手を合わせごめんと許しを請う。
希咲は仕方ないなと、くすっと笑ってすぐに機嫌を直してくれた。
瑞記はほっとするのと同時に、不機嫌な妻の顔を思い出した。
(希咲は心が広いし明るくて優しい。それに比べ園香はどうしてあんなに頑なで暗いんだ。それに自分勝手だ)
昨日の妻と酷いのやり取りを思い出すと、収まっていた不快感がまたこみ上げて来る。その気持ちが顔に出てしまったのか、希咲が呆れたような声を出した。