円満夫婦ではなかったので
「あら瑞記、どうしたの?」
「希咲……その服は」

彼女が身に着けていたのは、白いワンピースだった。襟元と袖にフリルがある女性らしいものだが、とにかく生地が薄いようで下着が少し透けて見えてしまっている。

てっきり普通の服を着ていると思っていた瑞記は、希咲の初めてみる刺激的な姿に激しく動揺していた。

「服?……ああネグリジェが珍しい? 私フリルとかレースが好きなんだけど、なかなかビジネスシーンには取り入れられないじゃない? せめて眠るときくらいは好きな恰好をしたいと思って」

希咲は下着が透けていることに気付いていないのか、平然としている。けれど瑞記の態度を不自然に感じたのか顔を曇らせた。

「変かな?」

「い、いや似合っているよ。ただ少し驚いただけだ」

(そうだよな。慌てて避難して来たんだから、着替える暇なんてなかったんだ)

コートの中がネグリジェでも何もおかしくない。

意識し過ぎている瑞記の方に問題があるのだ。

とは言え、華奢な体型のわりに豊かな胸や、滑らかな肌が視界に入ると平然とはしていられない。

(参ったな……目のやり場がない)

「ねえ、コーヒー淹れようか?」
「あ、ああ。俺がやるよ」
「ううん。大丈夫だから瑞記はゆっくりしていて」

部屋に備え付けのコーヒーメーカーの準備をしている希咲の後ろ姿を見つめながら、瑞記は額に手を置き項垂れた。

希咲は大切なビジネスパートナーだ。それなのにときどき彼女を意識してしまう。

今も……いつものような自然な会話が出来ないくらいは、瑞記の心の中は乱れていた。
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