円満夫婦ではなかったので
「……ぼ、僕たちの関係? よいビジネスパートナーだと思ってるけど」
「そうだね。パートナー。でも瑞記は本当にそれだけだと思ってる? 私はただの仕事仲間?」
希咲はそう言うと口を噤む。瑞記の答えを待っているのだ。
「もちろんただの仕事仲間だなんて思ってないよ。もし仕事で関わりがなくても希咲は僕にとってかけがえのない大切な存在なんだから」
嘘偽りない瑞記の本心だった。自分にとって希咲が一番大切で必要な存在だ。ただ置かれている環境がその気持ちを言葉にすることを許さない。
(彼女はどう思ってるんだ? もし同じ気持ちでいるなら……いや、そんな事を考えてはだめだ)
「希咲、そろそろ休んだ方がいい。君は少し飲み過ぎたし怖い思いをして動揺しているんだ」
「本当にそう思ってるの?」
依然として瑞記から目を逸らさない希咲は、瑞記の心の奥底を見透かしているようだ。
「ほ、ほら、もう寝よう。希咲がベッドを使って。俺はそこのソファで……」
空気が張り詰めている。
あと少しで何かが変わってしまいそうな、そんな予感を覚えて瑞記は希咲から先に目を逸らし、腰を下ろしていたベッドから立ち上がろうとする。
けれど希咲の手が瑞記の腕を強くつかんだ。
「ごまかさないで! 私達いつまでも自分の気持から逃げてたら駄目だよ。そうでしょう?」
瑞記の体を不安が駆け巡る。感情のまま流されて進んではいけない。残された理性が強烈にそう忠告しているのだ。
「希咲、これはよくないよ、僕は……」
「よくないのは、いつまでも自分を誤魔化すことじゃないの?」
「でも……」