円満夫婦ではなかったので
「瑞記は私が好き? 答えないで誤魔化したら嫌われていると受け止めるから。そうしたらもう瑞記とは会えないね」
希咲の声が、突然低く冷たいものに変わった。それはきっと彼女の本気の表れだ。
瑞記は衝撃を覚え大きく目を見開いた。
(希咲が僕の前からいなくなる?)
それだけは絶対駄目だ。彼女がいなくなるなんて耐えられない。
「ぼ、僕は……希咲が好きだよ! 誰よりも愛してるんだ……でも言っては駄目なんだ、仕方ないだろう?」
驚くくらい大きな声を出していた。これまで希咲の前でこんな風に感情的に叫んだことはない。自分を抑えられないところを見せてしまったと瑞記はたちまち後悔に襲われたが、希咲は軽蔑するどころか、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「瑞記、嬉しいよ。ありがとう本当の気持を言ってくれて」
ほっそりした腕がそっと瑞記の背中に回る。
希咲の温もりが伝わって来て、瑞記はもう何も考えられなくなった。
世間体や倫理観なんて言葉は頭から消えている。両親と兄弟のことも、妻のことも頭の中からは消えていた。今はただ腕の中の愛しい人だけを感じていたい。
「希咲……愛してるよ」
「ふふ……嬉しいよ」
愛らしい声で囁かれて、瑞記は堪らない気持ちになり、希咲の体をベッドに押し倒し組み敷いた。