円満夫婦ではなかったので


園香は、スマートフォンの画面を眺めて眉をひそめた。

【出張が一日延びたから、病院に行くのは明後日になりそうだ】

夫からのメッセージの送信日時は三日前。瑞記が園香の病室に来た日の夜だ。

「つまり今日来るってことよね? まだ来てないけど」

あと三十分で、面会時間が終了する。今日は来ないと思っていいだろう。

園香がスマートフォンを手にしてをメッセージアプリを確認したのはたった今だから、当然返信していない。

それなのに瑞記からのメッセージは、それ以降何も入って来ていなかった。

仕事が増えて出張が延長になったのだろうか。
そうだとしても普通は事情を説明したり、返事が無ければ再度メッセージを送りそうなものだけれど。

園香は小さな溜息を吐いた。

瑞記と話した日からずっと抱いている疑問が、確信に変わりつつある。

「私たちって上手くいってないよね……」

新婚半年と聞くと、まだまだ恋人同士のように仲が良いイメージがあるけれど、園香たちはそれに当てはまらないようだ。

何らかの事情で早くも冷めた夫婦になっている可能性が極めて高い。

言葉は柔らかいものの、行動に優しさや愛情が見えない瑞記の様子から、園香はそのように受けとめている。

だって妻を愛していたらもっと心配するだろうし、大切にしてくれるはず。
少なくとも園香だったら、記憶を失い不安であろう夫を放ったままにはしないし、どうしても外せない仕事があったとしても、なんとか連絡を取ろうとする。

何より愛する人が自分の存在を忘れてしまったらもっとショックを受けるものでは?

忘れられても淡々としている彼からは、何の想いも感じない。

(早くも離婚を考えるような状況だとか?)


昨日、見舞いに来てくれた母にそれとなく聞いてみた。

『ねえ、お母さんから見て私と瑞紀ってどんな夫婦だった?』
『上手くいっているように見えたわよ。瑞記くんは優しくて穏やかだから、喧嘩もなかったみたいね』
『そうなの……』

その場では話を合わせて頷いたものの、信じられなかった。
多分、母には実情を話していなかったのだろう。
< 9 / 170 >

この作品をシェア

pagetop