ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「いえ、そうじゃなくて。本当に、ここでお世話にはなれません」
頑なに言い張る私の困惑を、冷静そのものの眼差しが受け止めた。
「じゃあ、どこか避難場所に当てでも? 実家とか? オレを納得させるような場所が他にあるなら、言ってみろ」
実家……普通はそうかもしれない。
でも私の場合は……
「実家は、その、ちょっと無理ですけど、どこか友達の所とか」
あぁノリちゃんはダメだ。彼氏と同棲中だから。
では、彼女の実家は?
おば様に事情を話せば、少しの間くらいなら……?
ゴールデンウィーク中、あの夜の件でお礼に伺った時も、「いつでも遠慮なく遊びに来て」って言ってくれたし……
「ととにかく、どこか探します。ご心配いただかなくても、ちゃんと安全なところを――」
「昨日の今日でいい場所が見つかるわけないだろう。焦って探すとはずれくじを引くぞ。それにこういう場合、新しい男ができたと認識させた方が相手も諦めやすい」
再び先へと廊下を進む彼を追う。
「あ、新しい男、って……」
まさか恋人のふりでもしてくれるってこと?
小説のような展開に一瞬ドキリと心が動き、いや違う、と自分で突っ込んだ。
「そこまでご迷惑はかけられません。第一、高橋さんにどう説明するつもりなんですかっ」
「……は? なんでここに秘書の名前が出てくるんだ?」
ようやく彼の足を止めることに成功した私は、彼の前に回り込み、ここぞとばかり拳を握って訴えた。