ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

そこは8畳ほどの洋室で、ベッド、ライティングデスクや椅子、ドレッサーまで完備。リビングやキッチン周りのスタイリッシュな雰囲気とは一線を画す柔らかなアースカラーでまとめられ、女性らしさを感じさせる部屋になっている。

束の間それまでの会話も忘れて、ふらふらと足を踏み入れてしまった。それくらい好みど真ん中のインテリアだったから。

「どう? 気に入った?」

聞きながら室内に入ってきた貴志さんは、クイーンサイズのベッドの上に私のカバンを置く。

「全部プロに選ばせたけど、急遽依頼したからな、気に入らないものがあれば変えるから言ってくれ」

「急遽って……」
どうやら、“時間がかかる”っていうのはこの部屋の用意のことだったらしい。

「あとは――こっちにおいで」

促されて足を向けた部屋の奥。
そこはゆったりしたウォークインクローゼットで、今朝私が用意した旅行カバンが置かれていただけでなく、すでにぎっしりと服やカバンが……って、眩暈がしてきた。そういえば、高橋さんも『すべて用意するから必要ないわ』とか言ってた。あれはこういうことだったの? 


「や、やっぱり無理ですっ! 失礼しますっ」

何が起こってるのかとそら恐ろしくなって身を翻し、クローゼットから出ようとした私の行く手は、しなやかな腕に阻まれた。

「これは同棲じゃない。ただの同居で、ルームメイトになるだけだろう。何をそんなに緊張してるんだ?」

「き、緊張なんて、してませんっ」
通せんぼするみたいに私の前の壁に手をつき、余裕たっぷりに見下ろしてくる彼を私は必死に睨み返した。

「ふぅん?」

全然信じてないってそのカオに、不思議な笑みが閃く。

「そりゃ緊張はしないだろうな? 何しろ君はこのオレに向かって“誰でもよかった”と言い放った上、オレと寝たのにその事実を利用しようともしない、世にも珍しい女性だ。例え一緒の空間で生活していてもソノ気になんてならないだろうし、間違っても(・・・・・)恋愛感情なんて抱かないだろう?」

思わず絶句。
ものすごく、いろいろ含むところがあるっていうか、圧を感じるような……。
どうして? なんでこんなことするの?

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