ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
戸惑いを隠せない私は、彼の強い視線を避けてうつむくしかない。
そんなこちらの狼狽ぶりを目ざとく察知したのか、「あれ」とわざとらしくつぶやいた彼が上半身をかがめる気配がした。
「もしかして自信ないか?」
「はぃっ?」
「一緒にいたら、オレに本気で落ちてしまうかもしれないって?」
耳元に唇を寄せられ、秘め事をささやくように言われて。
あの夜と同じシプレ系の香りが妖しく私を包み込む。
ゾクッと全身を駆け抜ける甘い痺れ。
膝が豆腐になったかと思った。
「ままま、まさかっ……そんなこと、ぁあるわけ、ないじゃないですかっ」
限界まで目を逸らして言ってみるものの、ブレまくった声じゃ説得力は皆無だ。
一体何が起こってるの?
私が知ってる村瀬貴志じゃないみたい。
もっと、来るもの拒まず去るもの追わずな、あっさりした人だと思ってたのに……
あんなこと仕出かした私に、面倒な女に、どうしてここまで構うわけ?
それとも……あんなことがあったからこそ、とか?
――君はこのオレに向かって“誰でもよかった”と言い放った……間違ってもオレに恋愛感情なんて抱かないだろう?
もしかしたら、これは仕返し?
彼みたいなハイスペックでスペシャルな男性を、その他大勢と同列みたいに扱ったから、プライドを刺激されて怒っていて。
自分に夢中にさせた上で振ってやろう、って、そういうこと――?
「……私、本当に無理なんです。ここでは暮らせません」
あぁそうか、そうなんだ、とゆるゆる首を振りつつ密やかに笑う。
そんなこと、しなくていいのに。
とっくに私は、あなたに夢中だから。
「実は私、御社を辞めさせていただこうと思ってます」