ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「却下」
なっ……まさかの即答!?
若干怯んだものの、こっちにだって労働者の権利があるんだと自分を鼓舞して口を開いた。
「私は、派遣会社から派遣された社員です。あなたに私へ直接命令する権利はないはずです。だいたい副社長が社員と同居なんて、おかしいでしょう」
ムッと私が言い返すなり、「……ふぅん、おかしいか?」と彼の頬へ皮肉っぽい笑みが刻まれ――唐突に視界がぐるりと回った。
お姫様抱っこだ、と頭のどこかからその言葉を探し出した時にはもう、私の身体はベッドに投げ出されていて、はずみでカバンが床に落ちる乾いた音が聞こえた。
「な、なに、をっ」
さすが上質のスプリング、全く衝撃はなかった――って、そこじゃない。
あたふた身体を起こそうとするが、彼の動きの方が速く、あっという間に私は四肢を絡めとるように組み敷かれてしまった。
「なら、社員が副社長をベッドに誘うのは、おかしくないのか?」
「そ、それ、はっ……だから、謝ったじゃないですか。忘れてください、って……」
身体の大部分が重なっているから抵抗もままならず、気持ちは焦るばかり。
彼にとってはゲーム感覚なのかもしれないが、振り回されるこっちの身にもなってほしい、とほとんど泣きそうな目を上げる。すると。
「……忘れろ、だって?」
さっきまでとは違う低いトーン。
それは一瞬抵抗を忘れるほど、どこか胸を衝く響きを含んでいた。